壁とともに生きる　わたしと「安部公房」 （ＮＨＫ出版新書　６７５） ヤマザキマリ／著 教養新書の本その他

最初の数ページを読んだだけで、ヤマザキマリさんが聡明な書き手であることが分かります。しかも、語り口が安部公房に似ていると感じました、それもそのはず、「寝る間も惜しんで読み漁った。やがて自分の頭の中が安部公房化してしまい自分の思考も全て安部公房の言語でできているような感じになってしまった」そうです。 今なぜ、安部公房なのか？「安部公房文学は、ぼんやりしながら読める内容の作品ではないかもしれない。彼の作品を軸に思索することで、今の時代を乗り越えるためのあらゆる示唆を感受できるのではないかと思う」という。確かに難解なところはあります。さらに「安部公房の文学は読者の想像力や感受性を試しているような要素も強い」との分析は卓越していると思います。 ヤマザキマリさんは、「壁」をキーワードとして、主要5作品を採り上げ、作品に潜まされた「壁」の正体を解き明かしています。彼女の考察は見事というしかないです。私が高校時代に読んだ時は、作品の表層しか読めていなかったことを痛感しました。改めて、安部公房文学の深さを知らされた思いです。

「100分で名著」で解説をしているヤマザキさんの話がわかりやすく、面白いので興味を持ったことが購入のきっかけです。さらにご自身のエピソードを交えながら、「砂の女」を始め、いろいろな安部公房の作品について書かれています。作品の理解の仕方や感想がとても参考になると思いました。

安部公房ファンからすると、久しぶりに表舞台に出て、再評価してもらえたのが嬉しい。「砂の女」本当に名作。