bra********さんの商品レビュー

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花は散っても/坂井希久子

花は散っても/坂井希久子

bookfan

母親べったりの夫に失望し、一人暮らしを…

2021/2/26

母親べったりの夫に失望し、一人暮らしを始め、ネットで古着を扱う美佐。自分が育った旧家の蔵を取り壊す前に、所蔵品の整理を始める。箪笥の引き出しの二重になった底から、祖母の手記を見つける。祖母・咲子の生い立ちと川端家に引き取られた経緯、同い年の龍子を姉のように慕い、女学校生活を謳歌した記憶。そして龍子の妊娠の秘密を知ったとき、美佐は祖母が抱き続けた姉への思いの強さに愕然とする。ミステリー仕立ての中に 昭和の戦中戦後と令和が交差し、運命に翻弄される人々の姿を描いた力作。終盤の地歌舞伎の場面で、母狐を慕い続ける「狐忠信」の姿と、龍子を慕い続ける咲子の姿とが重なる趣向も秀逸。 東京大空襲で、キリスト教の礼拝堂には焼夷弾が落とされなかったエピソードが興味深い。 咲子の残した手記の中で語られる戦中戦後の日本に関する記述は、現代社会への警句となっている。 「たとえ国家という名の大足に踏みにじられようとも、最後まで美しいものを手放しはしない。きっと大勢の少女たちが心にそう誓いながら、戦火に焼かれていったのです。」(p.190)

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    レッドゾーン/夏川草介

    レッドゾーン/夏川草介

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    プロローグとエピローグは令和4年5月4…

    2023/2/20

    プロローグとエピローグは令和4年5月4日。本編3話は令和2年2月から4月にかけて、クルーズ船入港から初の緊急事態宣言までの、政府の迷走と医療現場の苦闘を描く。発症者の個人情報保護のために出来た「沈黙の壁」により、医療従事者の中にも事態の深刻さへの認知度が異なり、コロナ患者受け入れ病院が徐々に追い詰められていく過程を描く。一人の患者もないがしろにはしないという悲壮な決意が読者に迫ってくる。「熱量」にテレビの情報番組ではわからない、医療現場の苦難の真実をようやく理解する入り口にたどり着いた、という気がする。 「保健所は厚労省の管轄・・・、救急車は総務省の管轄・・・、指揮系統が違う・・・、保健所は救急車を動かすことはできない」、「現状では、コロナ患者の移送に救急隊の助力は得られません」(p.79) 「二〇二〇年三月の段階で、効果が証明されている薬物はなにもない。」(p.229) 「いつから我が国の医療は科学的エビデンスではなく、可能性と直感にもとづいて動くようになったんですかねぇ」(p.230)

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      財布は踊る   /新潮社/原田ひ香(単行本(ソフトカバー)) 中古

      財布は踊る /新潮社/原田ひ香(単行本(ソフトカバー)) 中古

      VALUE BOOKS Yahoo!店

      財布にまつわる六話。連作ではなく、六章…

      2023/1/12

      財布にまつわる六話。連作ではなく、六章の長編。葉月みずほがハワイで購入したヴィトンの財布。夫の借金が発覚しメルカリで売却。その財布を手にした人物たちのマネーゲームの物語。リボ払い、キャッチセールス、儲け話、転売、仮想通貨、奨学金、投資信託、不動産投資。「そんな旨い話がある訳ない」と疑いつつも手を出してしまう心理を軽妙なタッチで描く。リーマンショック、震災、コロナ。影響を受けるのは「持たざる人々」。「富める人々」は益々富み、貧しい者たちはさらに貧しくなる。それが日本という国の現実。文章より展開で読ませる作家。 「自分はなにも生み出していないし、人々が汗水たらして作ったもので上前をはねているだけの詐欺師や泥棒と同じなのに、自分たちがしていることを副業だ、起業だとぬかす・・・」(p.166) 「作ったものの上前」かな? 「コロナは人を貧しくも豊かにもした。・・・確実に言えるのは、世界中でさらに貧富の差が広がったことだ。」(p.252) 「言えるのは」だから「広がったということだ。」と結びたい。

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        母の待つ里/浅田次郎

        母の待つ里/浅田次郎

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        富裕層を相手としたプレミアムカード。会…

        2022/3/27

        富裕層を相手としたプレミアムカード。会員向けの「ホームタウン・サービス」。会員から得た情報を基に山村を「ふるさと」に仕立て、「母」や「近所の幼馴染」「寺の住職」などを登場させるサービス。利用者として登場するのは大手食品加工メーカーの社長で独身を通している・松永徹、大手企業を退職したとたん、妻から離婚を言い渡された室田精一、母を亡くした定年間近の女医・古賀夏生など。故郷を持たない人々が、騙されていると知りながら「ふるさとの母」に思いを寄せていく。松永と秘書の関係も気になるが、古賀と一緒になってもいいかな。 浅田さんらしい奇抜な発想と、ジワジワ心に沁みてくる淡々とした文体に心動かされた。 現実的には、このようなサービスは高価で需要が少なく、ビジネスとしては成立しそうもない。が、「虚構を虚構と知りつつ没入する」ことは、フィクションをフィクションとして楽しむことに通ずる。楡周平さんや相場英雄さんなら、このようなビジネスが破綻し、顧客に嘘の理由を告知するような展開となるかもしれない。

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          [本/雑誌]/リバ奥田英朗/著

          [本/雑誌]/リバ奥田英朗/著

          ネオウィング Yahoo!店

          長い小説だが、場面(視点)転換が巧みで…

          2023/2/20

          長い小説だが、場面(視点)転換が巧みで飽きずに読み通す。渡良瀬川河川敷で相次いで発見された女性の全裸死体。十年前にも同様に2人が殺害されていた。その被害者の一人の父親が執拗に捜査に絡んでくる。容疑者を別件逮捕するも証拠がなく不起訴となる。その直後、5件目の殺人事件が起き、急展開で終末へとなだれ込む。3人の被疑者をそれぞれマークしつつ細かな捜査が進む中、関係者がそれぞれの思惑で動き、事件を複雑化させていく過程が細かく語られる。殺人の動機は結局犯人本人も言語化できない。物的証拠と目撃証言だけが事件を解くカギだ。 多重人格の人物を出したことに疑問を持つ方もいらっしゃるだろうが、殺人を犯す瞬間って、普段とは別の人格になっているんじゃないかと思わされた。 「『あるいは女に預けたのかもしれん。知っての通り平野は用意周到な男だ』鑑識課長が異を唱え、平野が『確かに』と頷いた」(p.172) 先に出てきた「平野」は誤植。被疑者の「池田」が正しい。平野は捜査一課の刑事。

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            紙屋ふじさき記念館 〔4〕/ほしおさなえ

            紙屋ふじさき記念館 〔4〕/ほしおさなえ

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            シリーズ4作目。百花が属する小冊子研究…

            2021/12/30

            シリーズ4作目。百花が属する小冊子研究会に新入生が5名加入し、賑やかになる。ある日、部室に現れたのは天野楓。川越の「三日月堂」でアルバイトをしている新入生だ。小冊子研究会の新歓遠足の行き先は川越に決定し、三日月堂の弓子と悠生も登場し、月光荘も出てくる。ふじさき記念館があるビルは取り壊しが決まっている。記念館を存続させる方策の一環として、ウェブサイトを立ち上げる。そして、単に「場所を移す」のではなく、コンセプトを決め、それに沿った入れ物を考えていくべきと言うアドヴァイスを受け、記念館の新たな展開を考え始める。 川越の古民家を改造して記念館にする、という展開になるのか?? 「自分に与えられたことだけしていれば生きていけるなんて場所は、もうどこにもない」「でも、ひとりではなにもできないから、信じられる人といっしょに働きたい」(p.101) 「人目のことばかり考えていると、どうしたって人間は小さくなる。そういう人のところには人は集まらない」(p.134)

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              クローバーナイト   /光文社/辻村深月 (文庫) 中古

              クローバーナイト /光文社/辻村深月 (文庫) 中古

              VALUE BOOKS Yahoo!店

              幼稚園・保育園に通う子供たちと、その親…

              2021/2/26

              幼稚園・保育園に通う子供たちと、その親たちを描く中で、幼稚園・保育園独特の「文化」と「常識」を考える連作。主人公は会計事務所に勤務する裕と、小さなアパレル会社を経営する志保夫婦。二人には女児と男児の姉弟がいる。幼稚園・保育園の保護者たちの間の小さな事件を通して、「保活」「お受験」「誕生会」などの独特な「常識」を部外者の視点で見る裕と志保が謎を解き明かしていく。特に「お誕生会の島」には驚かされた。「秘密のない夫婦」では、志保の母親の言動を通して、孫への対応が娘夫婦の負担になる過程が巧みに描かれている。もうすぐ「お祖母ちゃん」になるうちの女房に読ませたい。自然な流れの中で、様々な問題を社会全体の問題に落とし込んでいく展開が見事。 志保の母親の言動、うちの女房にも共通点が見られる。子供に未だに干渉しすぎ。娘は既に保育園探しを始めているが、それに対して女房がいろいろ口を出しているのは良くない傾向。リビングにおいて、さりげなく女房読ませよう。

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                脱北航路/月村了衛

                脱北航路/月村了衛

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                この作家は「土漠の花」以来ずっと、フィ…

                2022/7/28

                この作家は「土漠の花」以来ずっと、フィクションとは思えない構成と展開を持つ力作を生み出してきた。今回は北朝鮮の潜水艦が拉致被害者を載せ日本に亡命を試みる、という設定で、軍人たちや被害者の来歴を紹介しつつ、亡命を阻止しようとする潜水艦との海中での死闘の過程を絡め、緊迫感あふれる物語に仕上がっている。浮上して乗組員が甲板に出、沈没寸前の潜水艦の乗組員たちを救ったのは海上保安庁の船舶ではなく、地元の漁船の乗組員たちだった。人が尊厳をかけて戦う姿を見て見ぬふりをする政治家たちへの厳しい糾弾の言葉が印象に残る。 「検索ロープで自分の体と魚雷発射管とをつなぐ」(p.232)とあるが、正しくは「牽索」か? 「日本はアメリカの下僕であり、中国の舎弟であり、南鮮の同類だ。だが、祖国はもっと嫌いであった。」(p.148) 「この国の意思決定システムは腐っている。長い警察官生活で、自分はそのことを骨身に染みて実感したのではなかったか」(p.202)

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                  梅花下駄 照降町四季 3  /文藝春秋/佐伯泰英(文庫) 中古

                  梅花下駄 照降町四季 3 /文藝春秋/佐伯泰英(文庫) 中古

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                  シリーズ3作目。焼け落ちた照降町の空き…

                  2021/9/21

                  シリーズ3作目。焼け落ちた照降町の空き地に、宮田屋と若狭屋の店の建築が始まる。同時に、鼻緒屋の家作の普請も始まる。梅花が大店の主の後添いとして落籍されることになり、最後の花魁道中で履く高下駄の制作を依頼された佳乃は自ら三枚歯に梅の絵を描くことを思いつく。一方、周五郎のもとには藩の知人や重臣・改革両派の誘いが相次ぐも、周五郎はこれを退ける。佳乃は、周五郎がいつか侍に戻るのではないかと不安を抱きながらも、仕事に没頭することで不安を振り切ろうとする。読売が佳乃の行状を書き立て、中村座でも佳乃を題材とした芝居を上演することになった。 七月十五日、盆の夕暮れ、吉原を出ることが決まった梅花の最後の花魁道中が照降町を行く。御神木の古梅の木を挟んで、佳乃と梅花が木の幹に手を添えて、亡くなった人たちを悼み、町の復興を祈る場面が印象的。藩の重臣派に属していた兄・裕太郎の死の報がもたらされ、波乱の最終巻へ。

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                    ついでにジェントルメン/柚木麻子

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                    英語の副題は「紳士の下風に立つことに飽…

                    2022/9/25

                    英語の副題は「紳士の下風に立つことに飽き飽きして」というような意味。7篇の短編。よくわからない話もいくつかあった。両端は菊池寛にまつわる物語。最初の1篇は、オール讀物新人賞を獲得した女性作家が行き詰まりを感じ、菊池寛の銅像に救われるファンタジー。最後の、実在した大塚女子アパートメントのカフェに関する物語では、文藝春秋の記者だった石井桃子、谷崎潤一郎の二番目の妻となった古川丁未子などが登場し、時代の先端を生きようとする女性たちの奮闘が描かれる。海外の少女小説を扱った「あしみじおじさん」も印象的。 「彼らがこうしてアイロンのかかったシャツを着て若い女と高級な鮨を食べている間に、その背後には、家事や育児に追われる女たちがいるわけだ。」(p.131) 「文句を言われないように、隙をつくらないように、どんな時でも誰かの目を感じながら、前後左右に気を配って、小さく小さくなっていた。」(p.253)

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